「さっき頼んだパン、まだ?」披露宴でスピーチ中も大声を出していた親族。その声が急に小さくなった理由
親族が集まる席で、ひときわ大きな声がした
いとこの披露宴に出たのは、去年の秋のことです。ホテルの宴会場には親族が20人ほどいて、私は父と一緒に後方の席に座っていました。
少し前方の親族卓の端に、新郎側の親戚だという五十がらみの男性がいました。
受付でも「いやあ、ここまで来るの大変だったよ」と大きな声で話していたので、離れたところにいた私にもよく聞こえていました。
その男性が最初にスタッフを呼び止めたのは、前菜の皿が下げられたころでした。
「あれ、次の料理はまだ来ないの?」
「ただいま順番にお持ちしております。もう少々お待ちください」
「そうなの?けっこう待つんだね」
怒鳴っているわけではありません。ただ、もともとの声が大きいので、近くの卓にまで会話が聞こえていました。
次の料理が運ばれてくると、男性は今度はパンを指しました。
「これ、お代わりできる?」
「はい、パンでしたらお持ちできます」
「じゃあ、もう少しお願い。朝から移動してきたから、お腹すいちゃってさ」
事情を聞けば分からなくもありません。それでも披露宴の最中に何度も大きな声が響くので、周りの親族も少し困ったような顔をしていました。
「さっき頼んだパン、まだ?」
しばらくしてスピーチが始まりました。
その途中、男性は通りかかったスタッフにまた声をかけました。
「さっき頼んだパン、まだ?」
マイクの声に重なるほどの大きさで、私も思わず前を見ました。
すると会場の後方から年上のスタッフがやってきて、男性のそばで腰をかがめました。
「お待たせして申し訳ありません。先ほどのご注文は承っております。すぐにお持ちしますね。ただすいません、少し声の大きさを抑えてもらえると助かります」
男性は少し意外そうな顔をしました。
「ああ、そうだね。パンを忘れられたのかと思ってさ」
「お待たせしてしまって、申し訳ありません」
スタッフはそれ以上言い返すこともなく、静かに頭を下げました。
少ししてパンが運ばれてくると、男性は皿を見て、
「ありがとう。じゃあ、いただくよ」
と返しました。
先ほどまでとは比べものにならないほど小さな声でした。
その後、男性が大きな声でスタッフを呼ぶことはありませんでした。
披露宴はそのまま進み、新郎の父の挨拶や新婦の手紙も、今度は最初から最後まで聞くことができました。
男性も最後まで席に残り、新郎新婦が退場するときには大きな拍手を送っていました。
強く注意されたわけでも、言い負かされたわけでもありません。自分の注文がきちんと伝わっていると分かって、ようやく安心したのかもしれません。
落ち着いた声で対応したスタッフの姿が、今でも印象に残っています。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














