「もういいから!」電話で40分も続いた要求。次々と担当を代わった電話で、最後まで変わらなかったこと
3人で、順番に代わることにした
電話の受付をしていた頃、同じ島に座る顔ぶれはだいたい決まっていた。
私と、斜め前の同期と、いちばん端の年上の男性社員。
忙しい時間はほとんど話すこともなく、それぞれが鳴った電話を取って一日が過ぎていった。
その日の午前、私が取った電話は、相手が名乗る前から声が大きかった。
用件は手続きについての行き違いで、こちらから案内できる内容は決まっていた。
ひと通り説明したところで、相手の声がさらに強くなった。
「だから、それじゃ困るって言ってるんだよ。上の人に代わって」
「申し訳ありません。担当が代わっても、ご案内できる内容は同じなんです」
「そんなこと聞いてないよ。いいから代わって」
それでも説明を続けたが、同じやり取りが何度も返ってきた。私はいったん保留にして顔を上げた。
声が聞こえていたのか、斜め前の同期がこちらを見ていた。
「まだ続いてる?」
私が小さくうなずくと、同期が椅子を少しこちらへ寄せた。
「一回、代わろうか」
このまま私一人で話していても進みそうになかった。
私は短く事情を伝え、いったん同期に対応を代わってもらうことにした。
同期は受話器を取ると、少し間を置いて話し始めた。
「お待たせしました。担当を代わりました。もう一度、お話を聞かせてください」
電話の向こうから、また大きな声が聞こえた。
それでも同期は遮らず、相手が話し終えるまで待った。
「はい…おっしゃりたいことは分かりました。ただ、こちらでご案内できるのは、先ほどお伝えした内容までなんです」
「だったら、もっと分かる人に代わってよ」
同期が困ったように私を見る。
その様子に気づいた年上の男性社員が、端の席から声をかけてきた。
「まだ続いてる?」
同期が受話器を押さえながらうなずいた。
「すみません。お願いしてもいいですか」
「うん、代わるよ」
受話器を置いた手が、しばらく止まっていた
三番目に対応した男性社員は、自分の席で受話器を耳に当てた。
「お待たせしました。代わりました」
相手はまた最初から不満を話し始めた。
男性社員は「はい」「そうだったんですね」と短く返しながら、最後まで口を挟まなかった。
そして話が途切れたところで、ゆっくり言った。
「お話は分かりました。ただ、こちらからお伝えできるのは、先ほど二人がご案内した内容と同じなんです」
「…結局、誰に代わっても同じってこと?」
「はい。申し訳ありませんが、そこは変えられません」
時計を見ると、最初のコールから40分ほど経っていた。
電話の向こうの声も、さすがに最初ほどの勢いはなくなっていた。
しばらく沈黙が続いたあと、相手がぽつりと言った。
「…もういいよ」
男性社員が何か返そうとしたところで、もう一度声が聞こえた。
「もういいから!」
その直後、電話は切れた。
男性社員は受話器を耳から離したものの、すぐには置かなかった。数秒たってから、そっと元の位置へ戻す。
それから顔を上げた。
私も同期も、いつの間にか彼のほうを見ていた。
「…終わった?」
同期が小さな声で聞いた。
「うん。終わった」
男性社員はそう答えると、ふっと息を吐いた。
「長かったですね……」
私が言うと、彼は少しだけ苦笑いした。
「まあね。でも、案内できないものは変えられないからね」
私は端末を開き、対応の記録を入力した。時刻、用件、途中で担当を代わったこと、案内した内容。
書き終えたところで、同期に画面を見せた。
「ほかに残しておいたほうがいいこと、ある?」
同期は少し確認してから首を振った。
「ううん。それで大丈夫だと思う」
私は少し離れた席の男性社員にも声をかけた。
「これで大丈夫ですか?」
彼は画面のほうを見て、うなずいた。
「うん。それでいいよ」
保存を押したところで、また着信音が鳴った。
私は一度だけ息を吐き、受話器を取った。
「お電話ありがとうございます」
さっきまでの40分が嘘のように、いつもの声が自然に出た。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














