tend Editorial Team

2026.09.12(Sat)

「誰かが触ってるのかな」ごみ出しをためらうようになった私。袋の向きが変わっていた理由とは

「誰かが触ってるのかな」ごみ出しをためらうようになった私。袋の向きが変わっていた理由とは

出すのをやめようと、台所で二回言った

四十代になった今でも、あの集合住宅で暮らしていたころの朝をよく覚えている。

同じ建物には、父と折り合いのよくない女性が住んでいた。

顔を合わせた日の父は、家に戻ってから口数が少なくなることがあった。

ただ、その女性と、このあと起きたごみ袋のことが関係していると分かる出来事は、最後までなかった。

ある朝、父がごみを出して戻ってくると、玄関で一度振り返った。

「今、向こうで何か音がしたんだよな」

「誰かいたの?」

「いや。振り返ったときには、もう誰もいなかった」

父自身も「気にしすぎかな」と言っていた。それでも、その話を聞いてから、私もごみ置き場が妙に気になるようになった。

ある収集日の朝、袋を持ったまま玄関で足が止まった。私は台所にいた母へ声をかけた。

「ねえ、今日は出すのやめようかな」

母が少し驚いた顔をした。

「え?でも、置いておくのも困るでしょう」

「分かってるけど…今日はなんか嫌なの。明日にしたい」

「そんなに気になる?」

「うん。ちょっと怖い」

結局、その日は出さず、翌日に回した。

しばらくして、また同じように足が止まった朝があった。

「今日もやめようかな…」

すると母が、困ったような顔でこちらを見た。

「また?この前もそう言ってたじゃない」

「だって、やっぱり気になるんだもん」

「気持ちは分かるけど、ずっと家に置いておくわけにもいかないよ」

それは私にも分かっていた。

そこで、出すのをやめるのではなく、出す時間を少し変えてみることにした。

袋を出したあと、もう一度見に行くようになった

いつもより早く出す日もあれば、少し遅くする日もあった。

何時ごろ出したのか分からなくならないよう、手帳の端に時刻を書いた。

袋を置くときには、口の結び目を自分のほうへ向けた。大げさな目印ではない。ただ、あとで見たときに、自分が置いた状態を思い出しやすかった。

ある朝、収集される前にもう一度置き場を見に行くと、結び目が横を向いていた。

別の日には、袋が置いた場所より少し奥へ寄っていた。

家に戻ると、私は母に声をかけた。

「ねえ、また動いてた」

「本当に?」

「うん。置いたときは、結び目をこっちに向けたんだよ」

母は少し考えてから言った。

「ほかの人が袋を置くときに、当たったんじゃない?」

「そうなのかな…」

それなら十分ありそうだった。ごみ置き場は私たちだけが使う場所ではない。誰かが新しい袋を置くとき、隣の袋に触れることだってある。

それでも何度か続くと、どうしても気になった。

「今日も少しずれてたよ」

「また?」

「誰かが触ってるのかな」

母はすぐには答えなかった。

「…分からないことを考えすぎても、怖くなるだけだよ」

その言葉を聞いて、私も確かめ続けるのはやめることにした。

誰かが動かしたのか、ほかの袋を置くときにずれただけなのか。それとも別の理由だったのか。結局、最後まで分からなかった。

引っ越しが決まるまでの半年、ごみを出す朝になると、私はつい置き場を気にした。それでも、そこで誰かが袋を触っているところを見たことは一度もなかった。

引っ越しの日の朝、最後のごみを置いた。

荷物を運び終え、車に乗る前に何となく置き場を見ると、うちの袋は少し端へ寄っていた。

「…最後まで分からなかったね」

私が言うと、母も置き場を見た。

「うん。でも、もう行こう」

私はそれ以上確かめず、そのまま車に乗った。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.11.05(Thu)

「それ本物?」母から譲り受けたバッグを偽物扱いするママ友。言い返せずにいた私を救った、隣のママの一言
tend Editorial Team

NEW 2026.11.05(Thu)

「その抱き方やめて。母親でしょ」と毎週押しかけて妻を責める母。ついに玄関で俺が突きつけた正論
tend Editorial Team

NEW 2026.11.05(Thu)

「我が家は辞退させていただきますね」ホームパーティー前夜に届いたママ友の要求。控えめな母親の返信をきっかけに全員辞退
tend Editorial Team

RECOMMEND

2026.03.25(Wed)

日の丸を燃やしてもお咎めなし?自国旗を軽んじる「理念法」案に漂うこれじゃない感と保守層の憤り
tend Editorial Team

2026.10.03(Sat)

「やっぱりお菓子はいらない、レジ打ち直して」3回目のやり直しで列を止めた男性。だが、店長が落ち着いて伝えたこと
tend Editorial Team

2025.08.16(Sat)

道重さゆみ引退に生みの親・つんく「作品は完成した。本当にお疲れ様でした。」と投稿、22年に渡るアイドル活動の終幕
tend Editorial Team