「駅前あたりでいいんじゃない?」授業参観の廊下で続くおしゃべり。だが、我慢出来ずに注意した結果
授業が始まっても、会話は続いていた
授業参観の日、私は教室の外の廊下に立っていた。高校生になると保護者の数はぐっと減り、ドアの前に集まっていたのは十人ほどだった。窓の外はもう暗くなりかけていて、廊下には少し冷たい空気が流れていた。
先生が出席をとり終えると、椅子を引く音が続いた。ガラス越しには、うちの子の横顔が見える。黙って板書を写す姿は、家にいるときとは少し違って見えた。
そのとき、斜めうしろから楽しそうな声が聞こえてきた。
「このあと、どうする?どこか寄ってく?」
「行こうよ。駅前あたりでいいんじゃない?」
二人の保護者が、お茶をする場所の相談を始めていた。
最初はすぐ終わるだろうと思っていた。ところが、「あそこは混むかな」「じゃあ別のところにする?」と話は続き、ときどき笑い声まで聞こえてくる。
先生も何度か廊下のほうへ目を向けていたが、そのまま授業を進めていた。
やがて、うちの子が手を挙げた。先生に指されると、立ち上がって答え始めた。
けれど、何を言っているのか私にはほとんど聞こえなかった。耳に入ってくるのは、うしろの会話のほうだった。
せっかく見に来たのに。
そう思うと、さすがに黙っているのがつらくなった。
「話はあとにしませんか」と声をかけた
私は半歩下がって、二人のほうを振り返った。
「すみません…話はあとにしませんか」
声が小さかったのか、二人には届かなかったようだった。そのまま会話が続いている。
少し迷ったが、もう一度声をかけた。
「すみません。今、子どもが答えてるので…話、あとにしてもらえますか」
今度は片方の人が、はっとしたようにこちらを見た。
「あ……すみません」
もう一人も教室の中へ目を向け、小さく頭を下げた。
「ごめんなさい。そんなに聞こえてました?」
「はい、けっこう聞こえてて…。子どもの声を聞きたかったので」
責めたいわけではなかったので、なるべく穏やかに返した。
「ほんとにすみません。全然気づいてませんでした」
二人はそれきり話すのをやめ、教室のドアから少し離れた場所へ移った。
授業は、そこからまだ45分ほど残っていた。
廊下が静かになると、先生の説明も、生徒が答える声も、それまでよりずっと聞き取りやすくなった。
さっきまで聞こえなかったことが、不思議なくらいだった。
終わりのチャイムが鳴り、保護者たちが帰り支度を始めたころ、先ほどの一人が私の近くまで来た。
「さっきは、本当にすみませんでした。話し始めたら止まらなくなっちゃって」
「いえ。私も声をかけるか迷ったんですけど……」
「言ってもらってよかったです。次から気をつけます」
そう言って、その人は少し気まずそうに笑い、階段のほうへ歩いていった。
そのあと教室から出てきたうちの子が、私を見つけた。
「あ、来てたんだ」
「来てたよ。ちゃんと見てた」
そう答えると、子どもは少し照れたような顔をして、鞄を肩に掛けた。
声をかけるまでは、余計なことを言うようで少し勇気がいった。でも、強く注意しなくても、困っていることをそのまま伝えれば分かってもらえることもあるのだと思った。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














