tend Editorial Team

2026.09.13(Sun)

「これだけ言わせてください」披露宴で終わらない友人のスピーチ。空気が凍った披露宴で司会が静かに止めた長話

「これだけ言わせてください」披露宴で終わらない友人のスピーチ。空気が凍った披露宴で司会が静かに止めた長話

進行表を持った人の、目の動き

友人の披露宴で、私の席は入口にいちばん近い円卓だった。正面には新郎新婦の席があり、会場の端で進行表を持つ司会の女性の姿も見えた。友人代表のスピーチが始まったとき、彼女は次の進行を確認していた。

登壇したのは新郎の友人の男性だった。

最初のうちは新郎との思い出話に笑いも起きていたが、しばらくすると、新婦が知らないらしい昔話を面白がって話すようになった。

男性は新婦のほうを見て笑った。

「これ聞いたことあります?たぶん新郎、話してないですよね」

新郎は困ったように笑っていたが、新婦はどう返せばいいのか分からないような表情をしていた。

それでも男性は話を続けた。

「まあまあ、せっかくだから。もうちょっとくらいいいですよね?」

会場から返事はなかった。

私たちの卓でも、さっきまで笑っていた人たちが黙り、グラスに伸びていた手も止まっていた。

隣に座っていた同期が、私にだけ聞こえるくらいの声で言った。

「これ…まだ続けるのかな」

私は会場の端に立っている司会を見た。

「司会の人も、ずっと気にしてるね」

司会はすでに進行表から顔を上げていた。腕時計を確認し、壇上と新郎新婦の席を交互に見ている。

スピーチが予定より長くなったころ、司会が静かに壇上へ歩き出した。

マイクは、そっと下ろされた

司会は男性の横まで行くと、少し身を寄せて声をかけた。

「恐れ入ります。そろそろお時間です」

男性は「あ、はいはい」と笑ってうなずいた。

私はこれで終わるのだと思った。ところが男性はマイクへ向き直った。

「じゃあ最後に、これだけ。これだけ言わせてください」

そう言って、また話し始めた。

司会は少し待ってから、今度は男性から見える位置へ一歩進んだ。

「申し訳ありません。そろそろお時間です」

男性は一度言葉を止めた。

「もう終わりますから」

そう返したものの、また話を続けようとした。

会場には、もう笑い声はなかった。

司会はそれでも声を荒らげなかった。三度目は、男性の顔を見ながらゆっくりと言った。

「そろそろお時間です。続きはぜひ、お席でお願いします」

男性はようやく司会のほうを向いた。

「……ああ、すみません」

それまでより小さな声だった。

男性がマイクから離れて一歩下がると、司会は小さく頭を下げた。そしてスタンドマイクに手を添え、静かに高さを下げた。

「ありがとうございました。新郎とのたくさんの思い出をお話しいただきました」

男性は少し気まずそうに頭を下げ、そのまま席へ戻っていった。

司会はすぐに次の進行へ移った。

「それでは改めまして、おふたりへ大きな拍手をお願いいたします」

ぱらぱらと始まった拍手が、少しずつ会場全体に広がった。音楽も流れ始め、張りつめていた空気がようやくやわらいでいった。

新婦の表情も少しやわらいだように見えた。新郎が隣から何か短く声をかけると、新婦は小さくうなずいていた。

披露宴がお開きになったあと、隣にいた同期がぽつりと言った。

「司会の人、大変だっただろうね」

「うん。あれ以上続かなくてよかった」

同期は壇上のほうを振り返った。

「最後まで怒った言い方、一回もしなかったね」

私も同じことを思っていた。

強い言葉を使わなくても、止めなければならないところではきちんと止める。その日の司会の落ち着いた声が、披露宴が終わってからも妙に耳に残っていた。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.11.06(Fri)

「結婚に反対されてるのかな」結婚のあいさつで出されたのは、色の薄いお茶。不安だった私が数年後に知った温かい真実
tend Editorial Team

NEW 2026.11.06(Fri)

「夕飯が遅いのは、野菜を先に切らないからだよ」とソファから口を出す夫。エプロンを手渡して任せた一時間後の本音
tend Editorial Team

NEW 2026.11.06(Fri)

「嫁が用意するって、昔から決まってるの」同居のあいさつ品を自腹で買った私。だが、義母が玄関先で言葉を失った理由
tend Editorial Team

RECOMMEND

NEW 2026.11.05(Thu)

「お昼ご飯、全員分買ってきて!」と引っ越し当日に手伝わず座り込む義母。私が義母に出した通告
tend Editorial Team

2026.05.14(Thu)

「接待だから普通だ」と笑う夫→追跡の末にホテルの駐車場で確かめた真実に、胸のモヤモヤは消えなかった
tend Editorial Team

2026.10.20(Tue)

「それで、得してたのは誰だった?」旅行の精算を終えた私に夫が放った一言。思い返すと恥ずかしかった勘違い
tend Editorial Team