「あと15分は手が離せないの」と鳴り続ける電話を無視する先輩。受話器を取って浮かべたぎこちない笑顔
鳴りやまない電話と先輩
先輩は鳴り続ける電話を前に、手が離せないと私に言いました
私は事務の若手社員で、近くの席には、長年勤めている女性の先輩がいます。
仕事は人並みにこなせるのに、先輩には変わった習慣がありました。
自分から電話に出ようとしないのです。
私が入社して3年、先輩が自分から受話器を取る姿は、ほとんど見た覚えがありません。
その日の午後は問い合わせが特に多く、ほかの若手社員もみな電話対応に追われていました。
先輩の机の電話機にも、何度も着信が入っています。
一本の電話対応を終えたタイミングで、私は先輩の席へ行き、遠慮がちに声をかけました。
『先輩、電話がひっきりなしで、手が足りなくて……』。すると先輩は、机の上のクリアファイルを手に取り、顔の前でひらひらと振りながら、私を見もせずに言いました。
「あと15分は手が離せないの。」
先輩は電話をよそに、後輩とパンケーキの話を楽しんでいました
急ぎの仕事を抱えているようには見えません。それなのに先輩は、右隣の席の後輩を呼び止めると、昨日の休みの話を始めました。
「昨日のパンケーキ、絶品だったの。」
後輩は『行ってみたいです』と目を輝かせています。
何度も電話が鳴っているのに、先輩にはまるで聞こえていないようです。
さっき手が離せないと言ったばかりではないか、とは言えませんでした。
相手は長く勤めているベテランで、私は3年目です。強く言えば、あとで気まずい思いをするのは私のほうでした。
私は不満を飲み込んで自席に戻り、再び鳴り始めた電話に対応しました。
先輩の机の前に立った私
全員が電話中だと私が告げ、先輩に電話をお願いしました
ところが、その時は突然やってきました。問い合わせが次々と重なり、電話を切ってもすぐに次の着信が入る状態になったのです。
ほかの社員も電話対応中で、新たな着信に誰も手が回りません。
先輩の机の電話機も鳴っているのに、先輩は自分の爪を眺めていました。
私の中で、我慢の糸が切れました。
私はようやく一件の電話対応を終えると、受話器を置いて先輩の机の前まで歩み寄りました。
そして、思い切り笑顔を作って、周囲にも聞こえる声で言いました。
「皆、仕事で手が離せません!」
「先輩、お願いします!」
電話対応に追われている社員たちに対し、先輩は手の空いた状態でした。忙しいと断られたことを思い出しながらも、私は先輩の返事を待ちました。
先輩は爪から目を上げ、私を見上げました。
先輩は受話器を取りましたが、うまく話せずにいました
先輩は何か言い返そうと口を開きかけて、やめました。周囲の社員も忙しく対応している状況では、さすがに断りにくかったのでしょう。
眉を寄せ、口の端を無理に上げたぎこちない笑顔のまま、のろのろと受話器を取り上げます。
突然の電話対応に戸惑ったのか、最初の『お、お電話、ありがとうございます』という挨拶から何度も言葉を詰まらせていました。
相手の用件を聞き取ろうとしながら、続いて出たのは、こんな言葉でした。
「しょ、少々、お待ちください!」
普段ほとんど電話に出ない先輩は、急に対応を任されたことで焦っているようでした。
受話器を握ったままメモ用紙を探して机の上を手でさぐり、額には冷や汗が浮かんでいます。
これまで電話を避け続けていた先輩が、慌てながらも対応する姿を見て、私の胸につかえていたものは、すっと軽くなりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














