「もっといい旅館だと思ってたのに」旅館の脱衣所で不満を口にした客。幼い私が感じた本音とは
湯上がりの脱衣所で、洗面台を待つことに
私が小学生だった頃、家族で温泉旅館に泊まったときの出来事です。
夕食を終えたあと、私は母と一緒に大浴場へ向かいました。週末だったこともあり、浴場には家族連れや女性客が多く、脱衣所も混み合っていました。
お風呂から上がって着替えを済ませたものの、私の髪はまだ濡れたままでした。
脱衣所の奥には、鏡とドライヤーが置かれた洗面台が三席ほどありました。しかし、どの席も使用中です。
母と私は、通路をふさがないよう壁際に寄り、席が空くのを待つことにしました。
「少し待とうか」
母に言われ、私はタオルで髪を押さえながらうなずきました。
洗面台では、一人が髪を乾かし、別の人が化粧水をつけています。混雑しているため、後ろには私たち以外にも二人ほど待っていました。
しばらくすると、一番端の女性がドライヤーを置きました。
席が空くのかと思いましたが、女性は立ち上がらず、鏡の前に化粧品を並べ始めました。
隣にいた連れの女性へ、周囲にも聞こえる声で話しかけます。
「もっといい旅館だと思ってたのに。洗面台も少ないし、置いてあるものも普通だよね」
後ろで待つ人を気にしない女性
連れの女性は困ったように笑い、「今日は混んでるみたいだね」と答えていました。
しかし、その女性は不満そうな表情のまま、鏡を見ながらゆっくりと肌の手入れを続けます。
化粧水をつけたあとも席を離れず、今度は髪をブラシで整え始めました。
後ろに人が並んでいることには、鏡越しに気づいていたと思います。それでも、急ぐ様子はありませんでした。
私の髪からは、まだ水滴が落ちています。せっかく温泉で温まったのに、立って待っているうちに肩のあたりが少し冷えてきました。
「お母さん、まだかな」
私が小声で聞くと、母は女性に聞こえないよう、静かな声で答えました。
「もう少し待ってみよう。寒かったらタオルを肩にかけておいて」
母は女性を注意しませんでした。
旅先で言い争いになるのを避けたかったのでしょう。当時の私は、なぜ母が何も言わないのか分かりませんでしたが、大人になった今ならその気持ちも理解できます。
やがて女性は化粧品をポーチに戻し、連れの女性と話しながら席を立ちました。
私たちはようやく洗面台を使うことができましたが、ドライヤーで髪を乾かしている間も、私は先ほどの言葉が気になっていました。
設備への感想は人それぞれです。ただ、後ろで何人も待っている場所では、必要な用事を済ませたら席を譲る気づかいも必要だったのではないでしょうか。
宿を楽しみにしていた私にとって、周囲に聞こえるように不満を口にされたことも、少し悲しく感じられました。
母と何も言わずに順番を待った、あの居心地の悪い時間を、今でもときどき思い出します。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














