「え?私じゃないよ。別の人じゃないの」服装を変えて何度も並ぶ客。だが、私が譲らなかった理由
さっき見たはずの人が、また列にいた
リサイクルのイベント会場でアルバイトをしていた頃の話です。ペットボトルを持ってきてくださった方に、箱ティッシュを一箱お渡しするのが私の持ち場でした。
ルールは「お一人さま一回」。
列に並んでもらい、ペットボトルを確認して、ティッシュを渡します。来場者が多い日は、ほとんど休む間もありませんでした。
そんな中、ティッシュを渡したばかりの人が、しばらくしてまた列に並んでいることに気づきました。
最初は「似た人かな」と思いました。ところがその人は、少し離れた場所で帽子をかぶり、上着の見え方を変えてから列の後ろへ回っていたのです。
順番が来ると、何事もなかったようにペットボトルを差し出しました。
「はい、これ。ティッシュ一箱ね」
私は迷った末、その日は何も言えずに渡してしまいました。
けれど翌日も、同じ人が来ました。一度ティッシュを受け取ったあと、しばらくするとまた列の後ろにいます。
さすがに気になって、責任者に相談しました。
「昨日も何回か並んでいた方が、今日もまた来ているみたいなんです。こういうとき、どうしたらいいですか」
責任者は少し考えてから言いました。
「気づいているなら、普通に伝えて大丈夫ですよ。『お一人さま一回でお願いしています』って。それでも何か言われたら、私を呼んでください」
「分かりました」
そう返したものの、いざ本人を前にすると、やはり少し緊張しました。
帽子をかぶっていて、前とは服装の印象も違います。でも、足元を見ると同じ履き古した靴でした。かかとの潰れ方にも見覚えがあります。
やっぱり、さっきの人だ。
そう確信したところで、その人の順番が来ました。
「はい。これでいいでしょ」
ペットボトルを差し出された私は、今度はそのまま受け取らずに声をかけました。
「すみません。先ほどもお渡ししていますよね」
相手は一瞬、きょとんとした顔をしました。
「え?私じゃないよ。別の人じゃないの」
少し心臓が速くなりました。それでも、ここでまた黙ったら昨日と同じです。
「帽子や服装は違いますけど、私、さっきも対応しているので覚えています。申し訳ないんですが、お一人さま一回でお願いしているんです」
言い返されても、同じことを伝えた
すると、その人は少し不満そうな顔をしました。
「でも、ちゃんとペットボトル持ってきてるじゃない。だったらいいでしょ」
強い口調ではありませんでしたが、「それくらいいいじゃない」という気持ちは伝わってきました。
私は一瞬ひるみましたが、責任者に言われた言葉を思い出しました。
「持ってきていただいたのはありがたいんです。でも、ティッシュはお一人さま一箱までなんです。すみません」
「一箱くらい増えたって変わらないでしょ」
「そう思われるかもしれません。でも、皆さん同じ条件で並んでいただいているので……」
そこまで言うと、その人は私の顔をしばらく見ていました。
こちらも怒っているわけではありません。ただ、もう一度ティッシュを渡すつもりもありませんでした。
やがて相手は小さく息を吐きました。
「……分かった、分かった。もういいよ」
そう言ってペットボトルを持ち直し、そのまま列を離れていきました。
言うべきことを伝えただけだった
大きな言い争いになったわけでも、誰かが拍手してくれたわけでもありません。
その人がいなくなると、次に並んでいた方がペットボトルを差し出しました。
「お願いします」
「ありがとうございます。こちらどうぞ」
私はいつも通り、箱ティッシュを一つ渡しました。
列はそのまま進んでいきました。
初日は何も言えなかったので、正直、また来たらどうしようと少し身構えていました。でも、必要なことを普通に伝えればよかったのだと、そのとき初めて分かった気がします。
相手をやり込める必要もなければ、強い言葉を使う必要もありません。
「みんな同じルールなので、ここだけは譲れません」
そんな気持ちで落ち着いて対応できたことが、当時の私には少しだけ自信になりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














