tend Editorial Team

2026.08.31(Mon)

「え?私じゃないよ。別の人じゃないの」服装を変えて何度も並ぶ客。だが、私が譲らなかった理由

「え?私じゃないよ。別の人じゃないの」服装を変えて何度も並ぶ客。だが、私が譲らなかった理由

さっき見たはずの人が、また列にいた

リサイクルのイベント会場でアルバイトをしていた頃の話です。ペットボトルを持ってきてくださった方に、箱ティッシュを一箱お渡しするのが私の持ち場でした。

ルールは「お一人さま一回」。

列に並んでもらい、ペットボトルを確認して、ティッシュを渡します。来場者が多い日は、ほとんど休む間もありませんでした。

そんな中、ティッシュを渡したばかりの人が、しばらくしてまた列に並んでいることに気づきました。

最初は「似た人かな」と思いました。ところがその人は、少し離れた場所で帽子をかぶり、上着の見え方を変えてから列の後ろへ回っていたのです。

順番が来ると、何事もなかったようにペットボトルを差し出しました。

「はい、これ。ティッシュ一箱ね」

私は迷った末、その日は何も言えずに渡してしまいました。

けれど翌日も、同じ人が来ました。一度ティッシュを受け取ったあと、しばらくするとまた列の後ろにいます。

さすがに気になって、責任者に相談しました。

「昨日も何回か並んでいた方が、今日もまた来ているみたいなんです。こういうとき、どうしたらいいですか」

責任者は少し考えてから言いました。

「気づいているなら、普通に伝えて大丈夫ですよ。『お一人さま一回でお願いしています』って。それでも何か言われたら、私を呼んでください」

「分かりました」

そう返したものの、いざ本人を前にすると、やはり少し緊張しました。

帽子をかぶっていて、前とは服装の印象も違います。でも、足元を見ると同じ履き古した靴でした。かかとの潰れ方にも見覚えがあります。

やっぱり、さっきの人だ。

そう確信したところで、その人の順番が来ました。

「はい。これでいいでしょ」

ペットボトルを差し出された私は、今度はそのまま受け取らずに声をかけました。

「すみません。先ほどもお渡ししていますよね」

相手は一瞬、きょとんとした顔をしました。

「え?私じゃないよ。別の人じゃないの」

少し心臓が速くなりました。それでも、ここでまた黙ったら昨日と同じです。

「帽子や服装は違いますけど、私、さっきも対応しているので覚えています。申し訳ないんですが、お一人さま一回でお願いしているんです」

言い返されても、同じことを伝えた

すると、その人は少し不満そうな顔をしました。

「でも、ちゃんとペットボトル持ってきてるじゃない。だったらいいでしょ」

強い口調ではありませんでしたが、「それくらいいいじゃない」という気持ちは伝わってきました。

私は一瞬ひるみましたが、責任者に言われた言葉を思い出しました。

「持ってきていただいたのはありがたいんです。でも、ティッシュはお一人さま一箱までなんです。すみません」

「一箱くらい増えたって変わらないでしょ」

「そう思われるかもしれません。でも、皆さん同じ条件で並んでいただいているので……」

そこまで言うと、その人は私の顔をしばらく見ていました。

こちらも怒っているわけではありません。ただ、もう一度ティッシュを渡すつもりもありませんでした。

やがて相手は小さく息を吐きました。

「……分かった、分かった。もういいよ」

そう言ってペットボトルを持ち直し、そのまま列を離れていきました。

言うべきことを伝えただけだった

大きな言い争いになったわけでも、誰かが拍手してくれたわけでもありません。

その人がいなくなると、次に並んでいた方がペットボトルを差し出しました。

「お願いします」

「ありがとうございます。こちらどうぞ」

私はいつも通り、箱ティッシュを一つ渡しました。

列はそのまま進んでいきました。

初日は何も言えなかったので、正直、また来たらどうしようと少し身構えていました。でも、必要なことを普通に伝えればよかったのだと、そのとき初めて分かった気がします。

相手をやり込める必要もなければ、強い言葉を使う必要もありません。

「みんな同じルールなので、ここだけは譲れません」

そんな気持ちで落ち着いて対応できたことが、当時の私には少しだけ自信になりました。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.10.16(Fri)

「でも、父は叔父さんを信じて貸したのよ」15年前の100万円をめぐり、母が法事の席で明らかにした記録
tend Editorial Team

NEW 2026.10.16(Fri)

「そんなの知らん、100円安かったはずだ」特売価格を譲らない男性が、持参した広告の日付を見て黙った瞬間
tend Editorial Team

NEW 2026.10.16(Fri)

「来年度は仕事が忙しいので」と役員のくじを引かなかった母親。翌年も帰ろうとした彼女に、会長が説明した新しい決まり
tend Editorial Team

RECOMMEND

2026.07.26(Sun)

「お菓子あるから、家に上げて」社宅で感じた視線。だが、会社への相談で状況が一変
tend Editorial Team

2025.11.15(Sat)

「藤井さんの思いのつまった言葉に涙が止まりませんでした。」藤井貴彦アナが急逝・菅谷アナに惜別の言葉…「信じてくれるでしょ...
tend Editorial Team

2025.12.14(Sun)

三宅裕司が都内の6億円大豪邸を売却へ 愛着ある7LDKを手放す決断にSNSでは人生の引き際に共感の声
tend Editorial Team