「前の彼氏なんて、そりゃひどかった」結婚式で元彼の話を始めた親族。楽しかった時間が思わず凍りついた
歓談の途中で、親族の男性が立ち上がった
二年前の秋、大学時代の友人の結婚式に呼ばれた。
会場は地方のホテルの宴会場で、招待客は80人ほど。余興を少なめにして歓談を長く取る進行で、あちこちの卓から楽しそうな笑い声が聞こえていた。
歓談が始まって十分ほどたったころ、新婦側の親族席から五十代くらいの男性が立ち上がった。頬はかなり赤く、手にはまだグラスを持っている。
男性は司会のところまで歩いていくと、笑いながら声をかけた。
「ねえ、俺もちょっとだけしゃべっていい?せっかくだしさ」
司会は少し困った顔をした。
「ただいまご歓談のお時間ですので……」
「ほんとに一言だけ。一分で終わるから」
男性が何度も頼むので、司会も最後は「では、短めにお願いいたします」とマイクを渡した。
最初は、新婦が小学生だったころの思い出話だった。
夏休みに遊びに来たときの失敗談を話すと、会場からも笑いが起きた。
新婦も高砂から、「もう、その話するの?」と苦笑いしている。
そこまでは、少し長めの親族スピーチというだけだった。
ところが男性は、だんだん調子が出てきたようだった。
「でもさ、俺、この結婚を聞いたときは本当に安心したんだよ」
新婦の笑顔が少し止まった。
「だってこの子、昔はほんと男運なくてさ」
それまで聞こえていた笑い声が、すっと小さくなった。
男性は気づかないまま続ける。
「前の彼氏なんて、そりゃひどかったんだよ。あのときはみんな心配して」
私は思わず新郎側の親族席を見た。新郎の父と母、祖母も、さっきまでしていた会話を止めて男性のほうを見ていた。
隣にいた先輩が、私のほうへ少し顔を寄せた。
「いや、それは今ここで言う話じゃないでしょ…」
「うん…」
私もそれしか返せなかった。
新婦は笑顔を作ろうとしていたが、明らかに表情が固くなっていた。隣の新郎が新婦のほうを向き、小さく何か声をかけている。
「今日はあの子のお祝いだから」
「それでな、その彼氏がまた」
男性がさらに話そうとした、そのときだった。
同じ新婦側の親族席から、年配の女性と若い男性が立ち上がった。
二人は男性の左右まで行くと、年配の女性が声をかけた。
「もう、そのくらいにしときましょう」
男性は振り返った。
「え? まだ途中なんだけど」
「もう十分ですよ」
「いや、でもここからが」
女性は男性の言葉を遮るように、少しだけ声を強めた。
「今日は昔の話をする日じゃないでしょう。あの子のお祝いなんだから」
男性は何か言い返しかけたが、そこで口を閉じた。
隣に立った若い男性も、「ほら、もう戻ろう」と小さく声をかけた。
年配の女性が男性からマイクを受け取り、司会へ返した。男性もそれ以上は抵抗せず、二人と一緒に親族席へ戻っていった。
席に着くと、そばにいた人から烏龍茶を渡されていた。
司会は少し間を置いてから、明るい声で進行を再開した。
「それでは皆さま、お待たせいたしました。続いて、ケーキ入刀です」
会場から拍手が起こり、新郎新婦も立ち上がった。
カメラマンが前へ出るころには、新婦の表情も少しずつ戻っていた。
隣の先輩が、ほっとしたように息を吐いた。
「止めてくれる人がいてよかったね」
「ほんとにね」
私もそう返した。
男性も、最初から新婦を困らせようとしていたわけではなかったのだと思う。楽しい思い出を話すうちに、お酒も入って、どこまで話していいのか分からなくなってしまったのかもしれない。
親しいからこそ知っている昔話でも、その場にいる相手によっては触れないほうがいいこともある。ケーキの前で並ぶ二人を見ながら、そんな当たり前のことを改めて感じた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














