「ご両親も喜ぶでしょう?」父の葬儀で続いた孫の話。だが、父の若いころの写真が回り始めた瞬間
お茶が二巡したころ
父の葬儀は、午前中で終わる小さな式だった。
式がひと通り終わると、親戚十人ほどが控えの間に集まり、折り詰めを囲んだ。私は1歳になったばかりの下の子を抱いて、夫と並んで座っていた。
親戚づきあいはもともと薄く、顔を合わせるのは何年ぶりかという人も多い。お茶が配られると、話は自然と近況へ移っていった。
「あら、大きくなったねえ。ちょっと抱かせてもらってもいい?」
「どうぞ。最近、ずっしり重くなってきましたけど」
そう答えると、周りから小さな笑い声が上がった。
父の話があまり出ないことを、私はそれほど気にしていなかった。静まり返っているより、にぎやかなほうが父らしい気もしていたからだ。
お茶が二巡したころ、父の兄の妻にあたる伯母が、私の腕の中の子を見ながら口を開いた。
「うちはね、息子のところがまだなのよ」
「娘の子もかわいいんだけどね。息子のところにもいたらなあって、つい思っちゃうの」
近くにいた親戚が「そうなの」と相づちを打ったが、伯母の話はまだ続いた。
「でも、こうやって孫を連れてきてもらえると嬉しいでしょうね」
そう言って、今度は夫のほうを見る。
「ご両親も喜ぶでしょう?」
夫は少し困ったように笑った。
「そうですね。近いので、顔はよく見せに行ってます」
「やっぱりそうよね。親はそれが嬉しいのよ」
夫は「まあ、そうですね」とだけ返し、湯呑みに手を伸ばした。
その話はまたにしましょう
伯母に悪気があるようには見えなかった。ただ、自分の息子にも子どもがいたら、という話が何度も続くうちに、私は少し落ち着かなくなってきた。
夫も返事に困っている。
葬儀の日に言い合いになるのは嫌だった。それでも、このまま聞いているのも違う気がした。
私は膝の上の子を抱え直して、伯母を見た。
「伯母さん、ごめんなさい。今日は父の話をしたいな」
伯母は一瞬黙り、それから「ああ……そうね」と小さくうなずいた。
そのとき、廊下側に座っていた親戚がこちらを向いた。ずっと同じ話を聞いていた人だった。
「そうね。その話はまたにしましょう。そういえば、昔の写真を持ってきたんじゃなかった?」
責めるような言い方ではなかった。
「あ、そうだった」
別の親戚がそばに置いていた封筒を手に取り、古い写真を何枚か取り出した。
「わあ、若いねえ」
「これ、何歳くらいのころ?」
伯母も写真をのぞき込み、「このころは髪がこんなにあったのね」と笑った。
さっきまで孫の話をしていたことを、誰も蒸し返さなかった。控えの間には、父の若いころの話が少しずつ戻ってきた。
しばらくして、私は子どもを抱いたまま控えの間を出た。白い花に囲まれた父の写真の前で、小さな手をそっと開く。
「おじいちゃんに、ばいばいしようか」
子どもは私の顔を見上げてから、小さな手をゆっくり二回振った。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














