「何もされてない。でも怖いの」店で親切にした男性が毎朝現れた。それから母に残った習慣
のど飴を1つだけ買う人
ずいぶん前の、母の話です。
母はドラッグストアで長くレジを担当していて、困っている人を見ると、つい手を貸してしまうところがありました。
ある日、会計中に小銭を床へ落とした年配の男性がいました。
腰がつらそうで、しゃがんだあと、なかなか立ち上がれなかったそうです。
母はレジを出て一緒に硬貨を拾い、男性が立ち上がるまでそばにいました。
「いやあ、助かったよ。ありがとう」
「いえいえ。慌てなくて大丈夫ですよ」
男性は帰り際にも振り返り、「また来るよ」と笑っていたそうです。
母にとっては、それで終わるはずの接客でした。
ところが男性は翌日も来店しました。
その次の日もやって来て、買うのはいつものど飴を1つだけ。会計が終わっても、出入り口の近くにしばらく立っていることがありました。
母からその話を聞いた私は、少し気になりました。
「それ、毎日なの?」
「うん。でも買い物はしてるし、何か言われたわけでもないのよ」
「ちょっと気になるなら、店長さんに話しておいたら?」
「そうね…でも、これだけで言うのも大げさかなって」
そう答える母も、少し引っかかっているようでした。
毎朝7時に見える赤いヘルメット
男性の来店が続いていたころ、朝早く母から電話がありました。
「ねえ、ちょっと聞いて」
いつもより声が上ずっています。
「どうしたの?」
「赤いヘルメットのバイクが、毎朝7時に家の前を通るの」
「毎朝?」
「ここ何日かずっと。今日、顔が見えたんだけど…店に来てる、あの人だった」
私は思わず黙りました。
「家の前で止まったりするの?」
「ううん。それはないの。少しゆっくり通って、そのまま行っちゃう」
その道を普段から使っているだけなのか、それとも別の理由があるのか、母にも分かりませんでした。
ただ、店で何度も顔を合わせている男性だと分かってしまうと、毎朝同じ時間に見かけることが気になってしまったそうです。
週末、私は実家に泊まりました。
翌朝7時前になると、父も窓の近くへ来ました。
やがて赤いヘルメットのバイクが見え、家の前をゆっくり通り過ぎていきました。
「…あの人?」
「うん。店に来る人」
父は遠ざかるバイクを見ながら、小さく息を吐きました。
「確かに気にはなるな。でも、道を通ってるだけじゃ何とも言えないか」
「そうなの。だから余計に嫌なのよ」
母のその言葉を聞いて、私もようやく分かりました。何かをされたわけではないからこそ、どう受け止めればいいのか分からなかったのです。
その後も赤いヘルメットのバイクは朝7時ごろに見かけましたが、1か月ほどすると来ない日が増え、やがて姿を見なくなりました。男性も店には来なくなったそうです。
先月、久しぶりに実家へ泊まったときのことです。
朝7時になると、台所にいた母がふと手を止め、窓の外を見ました。
「まだ見るの?」
私が聞くと、母は苦笑しました。
「もう来ないって分かってるんだけどね。時間になると、つい見ちゃうのよ」
そう言って一度だけ外を確かめると、母は何事もなかったように朝食の支度へ戻りました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














