「煮物がしょっぱいなら台所に来るな」嫁の私の悪口をでっち上げる義姉。だが、呼び名ひとつで顔色が変わった
半年ぶりの義実家の茶の間で
半年ぶりの義実家で、義姉が私の電話の話を始めました
4月の日曜の昼、半年ぶりに義実家の茶の間に上がりました。
義母に、煮物の作り方を教わる約束です。
義母は携帯電話を持たないので、先週、この家の固定電話にかけました。
義母はパートで留守でしたが、電話に出たのは近くに住む義姉。
煮物を教わりたいと伝言を頼み、その後、夫を通じて義母の了承をもらいました。
私が義姉と電話で話したのは、その一回だけです。
『お義母さん、よろしくお願いします』。
私が頭を下げ、義母が台所へ向かうと、座卓で隣に座る義姉が言いました。
「ママ、この人ね、電話で言ったの。」
「煮物が、しょっぱいって。」
義姉は、しょっぱいなら台所に来るなと言いました
台所の入口で、義母の足が止まりました。振り返った顔が、こわばっています。
私が否定するように首を横に振ると、義姉は私を見すえて続けました。
「煮物がしょっぱいなら台所に来るな。」
電話をかけたのは本当です。
けれど、義母の煮物がしょっぱいなどとは一言も話していません。何を話したかを知っているのは、受話器の両端にいた私と義姉だけでした。
義姉は、自分は一度も悪く言っていないと言いました
義姉は、わざとらしく目を丸くしてみせました。
「私は一度も、悪く言ってない。」
義姉は毎日のように実家に来て、義母はその義姉を頼りにしています。
電話の内容を証明できるものは、私の手に何ひとつありません。
私はうつむいたまま、次のひと言が出ませんでした。
「台所に来るな」
義姉は、茶の間で話すのは親子だけだと言いました
義姉は、私から目を離さずに言いました。
「茶の間で話すのは、うちの親子だけよ。」
「あなたの来る場所じゃない。」
そのとき台所で、鍋のふたを開ける音がしました。
すると、奥の茶だんすの上に置かれた鳥かごから、早口で何かつぶやく声が聞こえたのです。
声の主は、義母が1年前から飼っている黄色いインコでした。
いつもは聞き取れない声ですが、そのときは語尾の『…パイ』だけが耳に残りました。
私は義母を、ママと呼んだことが一度もありません
もしかして、『しょっぱい』と言っているのでしょうか。
先ほどの義姉の言葉が頭をよぎりました。
私は立ち上がり、鳥かごの前へ行きました。
義母から聞いていた呼び名で、ゆっくり声をかけます。『ピーちゃん、煮物は?』
「ママノニモノ、ショッパイ!」
思いがけない返事に、私は驚きました。
インコは、人が繰り返し口にする言葉を覚えてまねることがあります。
台所の入口で、義母も驚いたように振り向きました。
私は、座卓の義姉のほうを向きました。
「ママと呼んだこと、一度もありません。」
私は結婚してからずっと、義母を『お義母さん』と呼んでいます。
さっき義母を『ママ』と呼んだのは、義姉でした。
もちろん、インコの言葉だけで誰が話したのかは分かりません。それでも、普段から実家に来ている義姉が、この言葉を口にしていた可能性が頭に浮かびました。
義姉の顔色が、さっと変わりました。
義姉は手ぬぐいを落とし、黙りこみました
私が座卓の席に戻ると、義姉はそばに置いてあった手ぬぐいをつかんで言いました。
「電話で私が聞き返したのよ!」
「電話は、先週のあの日の一回です。」
私はあの電話で、煮物の味について話していません。義姉が聞き返したという説明には、納得できませんでした。
仮に先週の電話で一度だけ聞いた言葉だったとしても、それをインコが覚えた可能性はあります。
しかし、インコが口にした『ママの煮物』という表現が、どうしても気になりました。
義母も、黙って義姉を見つめています。
義姉は手ぬぐいを座卓に落とし、うつむいたまま黙りこみました。
眉が下がり、こめかみに汗が光っています。
しばらくして、義姉が小さな声で打ち明けました。
『ママ、ごめん。ママの仕事の日に、友だちとの電話で言ってた』。
義姉自身が、義母の留守中に煮物の味について話していたのです。インコが覚えた言葉も、義姉の口から出たものだったのかもしれません。
少なくとも、私が電話で義母の煮物を悪く言ったという話は、義姉がでっち上げたものでした。
義母は鍋つかみを外して台所の台に置くと、私に小さく手招きしました。
私は、座卓の義姉を残して、台所へ入りました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














