「ハンガーの色、お揃いにしたの」ベランダを覗き込んでくる上の階の夫婦。引っ越しを決めた私に放った恐怖の言葉
洗濯物から始まった
1Kのアパートで一人暮らしをしていた頃の話だ。真上に越してきた夫婦とは、廊下ですれ違えば会釈をする程度の間柄だった。
異変を感じたのは、洗濯物だった。私がベランダに干したタオルと、まったく同じ色柄のタオルが、翌日には真上の手すりに並ぶ。
一度や二度なら気にしない。けれど、それが毎回続いた。やがて、洗濯ばさみの色も、ハンガーの向きも、私の物とそっくり同じになっていった。
ある日は、私が新しく買ったスリッパの色まで。翌週には玄関先に、まったく同じ色のスリッパが、揃えて置かれていた。見られている、という感覚が、少しずつ確信に変わっていった。
郵便受けで会った奥さんは、うれしそうに切り出した。
「ハンガーの色、お揃いにしたの」
褒め言葉のつもりらしかった。私はうまく笑い返せなかった。
「そんなに、見てるんですか」
思わず漏らすと、奥さんは「だって、素敵だから」とだけ答えた。
バス停までついてくる
不気味さが決定的になったのは、外に出たときだった。最寄りのバス停に立つと、少し遅れて同じ夫婦が現れる。
私が肩にかけたバッグの位置、立つ向き、手すりに置いた手まで、鏡のように同じだった。
「奇遇ですね、いつも同じ時間で」
奥さんは笑ったが、旦那さんはただ黙って私を見つめていた。乗るバスも、降りる停留所も、いつからか一緒になっていた。
帰り道も同じだった。私がコンビニに寄れば、二人も少し遅れて同じ店に入ってくる。私がかごに入れた飲み物と同じ物を、奥さんはうれしそうに手に取って微笑んだ。
友人に打ち明けても、「気にしすぎだよ」と笑われた。
毎日決まって15分、真上からベランダを見下ろす二人の視線を、その人は知らないから言えることだった。
夜になると、天井の上でカーテンを開ける音がする。私がベランダに出た瞬間だけ、決まって上から人の気配が降りてきた。
このままでは、自分の生活が丸ごと写し取られてしまう。そう思うと、部屋にいるだけで息が詰まった。
試しに一週間、ベランダに何も出さずに過ごしてみた。すると真上の手すりからも、いつのまにか物が消えていた。
私が動けば、二人も動く。私が止まれば、二人も止まる。まるで鏡の向こうに、もう一人の自分を飼われているようだった。
耐えかねて選んだ道は、引っ越しだった。荷造りをする私の部屋を、真上の夫婦は変わらず見下ろしていた。
最後の日、玄関を出ると、奥さんが小さく手を振った。
「次のお部屋も、教えてくださいね」
その一言が、いちばん怖かった。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














