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2026.08.29(Sat)

「ちょっと待ってください。こんなお金は受け取れません」ポケットに入れられた1万円。後日、お客様が渡してきた理由が発覚

「ちょっと待ってください。こんなお金は受け取れません」ポケットに入れられた1万円。後日、お客様が渡してきた理由が発覚

何も言わずに、その人は出ていった

若いころ、ホテルのフロントに立っていました。出張で来られるらしいお客様で、これまでに何度も同じ曜日、同じくらいの時間にお見えになる方がいました。

何度か顔を合わせるうちに、こちらも顔を覚えるようになりました。ただ、その方はあまり話をする人ではありませんでした。

「おはよう」

「ありがとう」

私が聞いたことのある言葉は、それくらいでした。

ある日、チェックアウトを終えたその方が私のところへ近づいてきました。そして、何も言わないまま私の上着のポケットに何かを入れたのです。

驚いて取り出してみると、1万円札でした。

「ちょっと待ってください。こんなお金は受け取れません」

声をかけましたが、その方は振り返らず、そのままホテルを出ていきました。

どうして渡されたのかも分かりません。そのまま自分で持っているわけにもいかず、私は責任者に事情を話しました。

そして次に来られたときに返せるよう、1万円は封筒に入れて預かってもらうことになりました。

返そうとした封筒の前で、初めて聞いた理由

それからしばらくして、その方がまたホテルに来られました。

私は顔を見た瞬間、預かっていた封筒のことを思い出しました。

手続きが終わったところで封筒を用意し、カウンター越しに差し出しました。

「以前いただいたものです。やはり、この金額は受け取れません」

その方は封筒を見たまま、しばらく黙っていました。

それから、私がそれまで聞いたことのない長さの言葉を口にしました。

「いつも助かっているので、1万円でお茶でも買ってください」

私は思わず聞き返しました。

「いつも、ですか?」

その方が話してくれたのは、サービスに満足している、感謝の気持ちでした。

私たちにとっては、いつもの仕事の一つでした。

私はもう一度、手元の封筒を見ました。私一人へのお礼として受け取るのは、やはりためらわれます。

「それなら、スタッフみんなでお茶やお菓子をいただいてもいいですか」

そう尋ねると、その方は小さくうなずきました。

「うん」

それだけ言うと、いつものように部屋へ向かっていきました。

休憩室に並んだ、お茶とお菓子

後日、私たちはそのお金でお茶とお菓子を用意しました。

休憩室のテーブルに並べていると、同僚が「誰からですか」と聞きました。

「いつも泊まりに来る、あの方から」

そう答えると、「ああ、あの方ね」と笑う人もいました。

紙コップにお茶を注ぎながら、私はカウンターで交わした言葉を思い出していました。

あれから何年も経ちました。あの方が今どうしているのかは知りません。

お礼を言葉にするのが得意ではない方だったのかもしれません。それでも、こちらがしていた小さなことを覚えていてくれたことは、今でも忘れられません。

あの日、ただ受け取っていたら、理由を聞くことはなかったでしょう。返そうとしたからこそ、初めて知ることができた「ありがとう」でした。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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