「ネットに虫が出ないって書いてあったの」園芸コーナーで言葉に詰まった私。だが、先輩が教えてくれたこと
携帯の画面を見せられて
大学生のころ、ホームセンターの園芸コーナーで働いていました。土のにおいや重い肥料袋にも、ようやく慣れてきた初夏のことです。
夕方、一人の女性客が携帯の画面をこちらに向けながら声をかけてきました。
「家庭菜園を始めたいんだけど、有機の土で虫が出ないものってあります?」
私は少し迷ってから答えました。
「虫が絶対に出ない、とお約束できる土はないんです」
すると女性は、すぐに携帯を持ち上げました。
「でも、ネットに虫が出ないって書いてあったの」
「そうなんですね。ただ、置く場所や育て方によっても変わるので、絶対に出ないとはご案内できなくて…」
説明を続けようとすると、女性の声が少し強くなりました。
「だから、ネットに虫が出ないって書いてあったの。じゃあ、私は何を買えばいいの?」
困っているのは分かるのですが、どう答えれば納得してもらえるのか分からず、私は言葉に詰まってしまいました。
先輩が聞いたのは、育てる場所だった
そのやり取りが聞こえたのか、隣の棚で苗を整理していた先輩がこちらへ来ました。
「お待たせしてすみません。どちらで育てる予定ですか?」
先輩が穏やかに尋ねると、女性も少し表情を緩めました。
「家で育てたいんです。でも、虫が本当に苦手で…」
「それは気になりますよね」
先輩はうなずき、棚の商品を見ながら続けました。
「絶対に虫が出ないとは言えません。でも、使う場所に合う土を選んで、気をつけるポイントをご案内することはできますよ」
女性は少し黙ったあと、「じゃあ、できるだけ困らないものを教えてください」と言いました。
先輩は袋の説明を一緒に確認しながら、女性の使い方に合いそうな土を案内しました。
「じゃあ、これにします。絶対に出ないってわけじゃないんですね」
「はい。そこだけは、はっきりお伝えしておきますね」
女性は納得したようにうなずき、土をカートに入れてレジへ向かいました。
「説明は間違ってないよ」
女性が離れてから、私は先輩に小声で聞きました。
「私、何て言えばよかったんでしょう…」
先輩は笑うでもなく、いつもの調子で答えました。
「説明は間違ってないよ。ただ、あの人は“虫が出るかどうか”より、“虫が苦手だからどうしたらいいか”を聞きたかったんだと思う」
「なるほど…」
「できないことを説明したあとに、できることを一つ伝える。それだけでも話しやすくなるよ」
商品について正しく答えることばかり考えていた私は、その言葉で少し肩の力が抜けました。
あの日以来、答えに困ったときほど、まず相手が何に困っているのかを聞くようになりました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














