「寄りかからないでください」混んだ車内で体重をかけてきた乗客。だが、2回も注意しなければいけなかったワケ
手すりは、頭のすぐ上にあった
帰りの時間、車内は肩と肩が触れる程度に混んでいた。
私は入口の脇で、車内側を向いて立っていた。頭のすぐ上には横に伸びた手すりがあり、揺れても困らない位置だった。
途中の駅で扉が開き、人がまとまって乗ってきた。そのうちの一人、イヤホンをしたスーツ姿の人が私の前に入り、こちらに背を向けて立った。
扉が閉まり、電車が動き出した瞬間、その人の背中がぐっとこちらへ寄ってきた。
最初は揺れた拍子だと思った。
けれど、少し横へ体をずらしても、次に揺れるとまた背中が押しつけられる。
背中から腰のあたりまで、こちらに体重を預けられているようだった。
相手の肩越しに、スマートフォンの画面がちらりと見えた。
動画を見ているようで、指だけがときどき動いている。手すりにも、つり革にもつかまっていなかった。
私は足に力を入れながら、しばらく耐えた。
でも、揺れるたびに重さがかかってくる。
どうして私が、この人の体重まで支えなければならないんだろう。
そう思ったら、もう黙っているのが嫌になった。相手の背中に向かって声をかけた。
「すみません。寄りかからないでもらえますか」
反応はなかった。イヤホンで聞こえていないのかもしれない。
今度は少し声を大きくした。
「すみません、重いんです。寄りかからないでください」
10秒だけ、まわりの音が遠くなった
言い終わると、ようやく体が離れた。
急に軽くなって、私は思わず息を吐いた。
相手が少しだけこちらを振り返った。
「あ…すみません」
それだけ言うと、相手は腕を上げ、頭上の手すりを握った。
最初から、そこにあった手すりだった。
そこから10秒ほど、妙に長く感じる静けさが続いた。
誰かがこちらをじろじろ見ることもなく、次の停車駅を知らせる案内が流れたころには、車内は何事もなかったような空気に戻っていた。
週末、友人と食事をしているとき、ふとその話をした。
「この前、電車でずっと寄りかかられてさ」
「え、知らない人に?」
「うん。動画見ながら、ずっとこっちに体重かけてくるの」
友人は箸を止めた。
「それ、何か言った?」
「最初は我慢してたんだけど、さすがに重くて。寄りかからないでくださいって言った」
「そしたら?」
「『すみません』って。で、普通に上の手すりにつかまった」
友人は一瞬黙ったあと、あきれたように言った。
「最初から、そこにつかまれたんだよね?」
「そう。すぐ上にあったのに」
あの人がわざと寄りかかっていたのか、それとも本当に気づいていなかったのかは分からない。
ただ、私が何も言わなければ、たぶんあのままだった。
「次からは、そんなに我慢しなくてもいいんじゃない?」
「うん。今度はもう少し早く言う」
ほんの短いやり取りだった。それでも、嫌だと思ったときに声に出していいのだと、自分の中では少しだけ思えるようになった。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














