「私、もうあのお店には行かないことにした」妹の一言で決めた、通い慣れた店から足が遠のいた理由
毎日来ていた常連から、誘いが届くようになった
二十代の終わりから三十代の初めにかけて、私は妹と近所のバルによく通っていました。
若い二人が営んでいる店で、常連の顔ぶれもだいたい決まっていました。私も隣に座った人と仕事の話をするようなことは珍しくありませんでした。
その中に、ほぼ毎日のように来る四十代の男性がいました。
近くのパン屋で働いていて、奥さんや子どもの話もよくしていた人です。
最初は、話しやすい常連の一人だと思っていました。
連絡先を交換したのは、私が一人で飲んでいた晩でした。
少し迷いましたが、断るほどのことでもないのかなと思い、その場の流れで交換してしまいました。
それから、「よかったら店にも来てよ」と、男性が働いているパン屋へ誘う連絡が二度届きました。一度だけ買いに行くと、その日のうちに今度は食事へ誘われました。
あるときは、パンの詰め合わせを渡されたこともありました。
「これ、よかったら。ちょっと特別に作ったから」
「え、こんなに?ありがとうございます」
「今度、時間あるときにご飯でも行かない?」
「すみません。そういうのは、ちょっと…」
嫌いな相手というわけではありませんでした。ただ、奥さんや子どもの話を聞いていたこともあり、個人的な誘いが続くほど、どう返したらいいのか分からなくなっていきました。
その後は食事の誘いには乗らず、連絡が来ても必要以上に話を広げないようにしました。しばらくすると、男性からの連絡も来なくなりました。
気を張らずに座れる場所を、選び直した
それで全部終わったはずなのに、今度はバルへ行くこと自体をためらうようになりました。
あの店へ行けば、また男性と顔を合わせるかもしれません。何かされると決まったわけではないのに、「今日はいるかな」と考えながら店へ向かうのが嫌になっていました。
店に落ち度はありません。店の二人は、私たち姉妹をいつも気持ちよく迎えてくれていました。
だからこそ、行かなくなることには迷いました。それでも、誰かの姿を気にしながら飲む場所にしたくはありませんでした。
ある夜、妹と一緒に歩いていた帰り道で、私は少し迷ってから言いました。
「私、もうあのお店には行かないことにした」
妹は一瞬こちらを見ました。
「そっか。……何かあった?」
「うん、まあ少し。でも、お店が悪いわけじゃないんだ」
「じゃあ無理して行かなくていいよ。また別のところ探そう」
「ごめんね。ずっと一緒に行ってたのに」
「なんで謝るの。お店なんて、ほかにもあるでしょ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けました。
秋の終わりごろ、私たちは川沿いの通りで小さな店を見つけました。カウンターだけの、静かな店でした。
初めて入った日、店主が温かいおしぼりを差し出してくれました。妹が隣の椅子に座りながら、小さな声で言いました。
「ここ、落ち着くね」
「うん。いいかも」
誰かがいるかどうかを気にせず座っていられることに、私はようやくほっとしていました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














