「昔のへそくりの成れの果て」 母も知らない通帳が実家の書類から出てきた日→父が照れくさそうに笑った理由
まだ大丈夫と言っていた両親
実家の両親とお金の話をするようになったのは、数年前のことです。
それまでは、私が今後の暮らしについて何か聞いても、父は「まだ大丈夫だよ」と笑うばかり。
なかなか具体的な話にはなりませんでした。
「大丈夫なのは分かるけどさ。一度、一緒に確認しておきたいんだよ」
この先の介護や病院のことも含めて、少しずつ話を重ねていくうちに、両親もお金の話をしてくれるようになりました。
そして先日、ようやく3人で銀行口座を整理することになったのです。
実家の居間に入ると、座卓の上には通帳や書類が山のように積まれていました。前の晩に母がまとめておいてくれたものです。
「これで全部よ。お父さんのも、私のも」
「ありがとう。じゃあ、順番に見ていこうか」
私たちは座卓を囲み、通帳を一冊ずつ確認していきました。
入金や引き落としを確かめ、もう使っていない口座をメモに書き出します。父は老眼鏡をかけたり外したりしながら、ときどき横からのぞきこんでいました。
最初は大変そうだと思っていた作業も、少しずつ終わりが見えてきました。
母も知らない一冊
ところが、作業も終わりに近づいたころのことです。
書類の束を整理していた私は、その間に挟まっている一冊の通帳に気づきました。
母が並べていた通帳の山にはなかったものです。名義を見ると、父の名前が書かれていました。
「あれ?お父さん、これもお父さんの通帳?」
私が持ち上げて見せると、隣にいた母も不思議そうにのぞきこみました。
「え、そんなのあったの?私、知らないわよ」
父を見ると、なぜか目をそらしています。
「お父さん?どうしたの?」
それでも父は、すぐには答えません。
母も知らない口座があったことにも驚きましたが、父が黙っているのが余計に気になりました。
何か大きな買い物でもしたのだろうか。それとも、家族に話しにくいお金の使い道があったのだろうか。
考え始めると、どうしても悪いほうへ想像してしまいます。
「…ひょっとして、何か隠してた?」
私が聞くと、父は少し困ったような顔をして、通帳に手を伸ばしました。
そして最後のページを開き、黙って私たちのほうへ向けたのです。
そこに記されていた残高は、なんと数百円。
「えっ、これだけ?」
思わず聞き返すと、父は照れくさそうに頭をかきました。
「昔のへそくりの成れの果て」
一瞬、何を言われたのか分かりませんでした。
すると、隣で母がぷっと吹き出したのです。
「なによ、それ!急に黙るから、何事かと思ったじゃない」
「いやあ、若いころに、こつこつ貯めてたんだよ。いつの間にか、ほとんど使っちゃったけどな」
父は少し恥ずかしそうに笑っています。
あれこれ心配していたのが急におかしくなって、私も笑ってしまいました。
母は何度も通帳をのぞきこんでは、まだ笑っています。父もつられたように笑い、さっきまでの気まずい空気がすっかりなくなりました。
「じゃあ、これも整理するほうに入れておくね」
私が通帳を受け取ると、父は少し名残惜しそうに眺めていました。
「長い付き合いだったんだけどな」
その一言に、母と私はまた笑ってしまいました。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














