「早く結婚して親を安心させろ」と親戚の前で言う叔父。だが、従妹の一言で黙り込んだワケ
料亭に響いた叔父の説教
祖母の米寿の祝いで、親族十数人が料亭の座敷に集まった。
仕出しの膳を囲み、久しぶりの再会に話がはずむ。
子どもの頃に遊んでもらった従妹も、すっかり大人になっていた。
盃が回りはじめた頃、威圧的なことで知られる叔父が、独身の私に絡んできた。
「早く結婚して親を安心させろ」
その声は座敷の隅まで届き、場の話し声が止まった。
私は苦笑いで受け流す。だが叔父は、それで終わらせてはくれなかった。
「30代にもなって、情けないと思わないのか」
料理が運ばれるたびに、同じ説教が蒸し返される。
皆が見ている前で何度も繰り返されると、笑って流すにも限界があった。せっかくの祝いの席で、なぜこんな話を延々と聞かされなければならないのか。
叔母たちは目を伏せ、誰も口を挟まない。叔父の声が大きくなるほど、座敷の空気は重く沈んでいった。私はひたすら、グラスを傾けてやり過ごすしかなかった。
普段おとなしい従妹の逆転
沈黙を破ったのは、意外な人物だった。普段はおとなしく、こうした場で発言などしない従妹が、まっすぐ叔父を見た。
「今は結婚の形も人それぞれだし、本人が幸せならそれでいいんじゃない?」
叔父が言葉に詰まる。その隙に、従妹はもう一歩踏み込んだ。
「叔父さんも昔は自由だったでしょ?」
そう聞いている、と従妹は静かに告げた。どうして自分がされて嫌だったことを、人に言うのかと。
穏やかな声なのに、一言ずつが正確に急所を突いていく。
叔父の顔がこわばった。何か言い返そうと口を開きかけたものの、声にならない。盃を持つ手が宙で止まり、やがて視線が泳ぎはじめた。さっきまでの威勢のよさは、どこかへ消えていた。
逃げ場をなくした叔父は、ばつが悪そうに黙り込んだ。代わりに、まわりの親族が次々と声を上げた。
「確かに、その通りだ」
「今は価値観も変わったからね」
うなずく顔が座敷に広がり、形勢は完全に入れ替わった。
叔父はそれきり盃に目を落とし、独身の話題を二度と口にしなかった。気まずそうに小さくなった姿を見て、私は内心ほっとしていた。
会のあとで従妹に礼を伝えると、彼女はあっさり笑った。
「理不尽なことを言われてるのを、見ていられなかっただけ」
大層なことをしたつもりはない、という口ぶりだった。けれど、誰も止められなかったあの場を変えたのは、まぎれもなく彼女の一言だ。
祖母の祝いの席を守ってくれたのは、いちばん物静かな従妹だった。気まずそうに小さくなっていったあの日の叔父の横顔は、今も忘れられない。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














