「今さらだよね。本当にごめん」10年ぶりに会った友人。封筒に入っていた、3000円の理由とは
3000円を出したのは、私だった
定時制の高校を卒業した日の夜、同じ学年の何人かでカラオケに行った。
昼は働き、夜に授業を受ける三年間だった。その最後の夜だったので、歌うより話している時間のほうが長かった。
そろそろ帰ろうかという空気になり、みんなで伝票を見ながら会計を始めた。
そのとき、隣にいた友人が財布の中を見て、困ったように私を見た。
「あ…どうしよう。今日、あんまり持ってきてない」
「足りないの?」
「うん。ごめん、私の分だけ先に出してもらっていい?」
友人の分は3000円ほどだった。働きながら学校に通っていた私にとって、気軽に出せる額ではない。それでも卒業の日だったこともあり、その場で断るのも気まずくて財布を開いた。
「分かった。今日は出しておくよ」
「ほんと?ごめん。ちゃんと返すから」
「うん。また会ったときでいいよ」
そのときは、近いうちにまた会えると思っていた。
けれど卒業すると、みんなの生活はばらばらになった。私はその友人の連絡先を知らず、分かっていたのは名前と住んでいるおおよその地域くらいだった。
最初のうちは、また誰かを通じて会うだろうと思っていた。それが一年、二年と過ぎるうちに、3000円のことを思い出す回数も少なくなっていった。
ただ、完全に忘れたわけではなかった。
三度目に来たとき、手に封筒があった
それから10年ほどたった春、同じ学年の集まりを知らせる案内が届いた。
出席に丸をつけるまで、少し迷った。懐かしい人には会いたい。
私は参加することにした。
当日、会場にはその友人も来ていた。
最初に私のところへ来たときは、「久しぶり。元気だった?」と笑って、仕事の話を少しした。
二度目は、近くを通ったときに子どもの話になった。
けれど、どちらのときも何か言いたそうにしているように見えた。話が途切れると、友人は「じゃあ、またあとで」と離れていった。
そして三度目。
友人は小さな封筒を手にして、私の前に立った。
「ねえ、ちょっといい?」
「うん?」
友人は封筒を差し出しながら、気まずそうに笑った。
「これ…あのときのお金」
一瞬、何のことか分からなかった。
封筒を見て、ようやく卒業の日のことが頭に浮かんだ。
「もしかして、カラオケの?」
「そう。ずっと気にしてたんだ」
「覚えてたの?」
「覚えてるよ。返すって言ったのに、そのままだったから」
封筒には3000円と、折りたたまれた便箋が一枚入っていた。
「連絡先が分からなくて、最初は何人かに聞こうとしたんだけど…途中でそのままにしちゃった」
友人は少し間を置いた。
「今さらだよね。本当にごめん」
便箋には、あの夜の日付と短い謝罪が書かれていた。
「毎年、卒業の時期になると思い出してた。今日、会えてよかった」
10年もあったのだから、もっと早く何とかできなかったのだろうか。そう思う気持ちがなかったわけではない。
けれど、友人もそのことを分かったうえで封筒を持ってきたのだと思うと、今さら強く責める気にもなれなかった。
「ずいぶん遅かったね」
そう言うと、友人は小さく笑った。
「うん。本当に」
「でも、返してくれてありがとう」
「こっちこそ。受け取ってくれてありがとう」
その日の会計は、幹事が人数で割ってくれた。
財布を出しながら、友人がこちらを見た。
「今日はちゃんと持ってきてるから」
「さすがにね」
思わず二人で笑った。
会場を出るころには、外はもう暗くなっていた。駅へ向かう途中、友人が隣を歩きながら言った。
「また会えたらいいね」
「うん。次はもう少し早く会おうよ」
「そうしよう」
10年前に残ったままだった小さな引っかかりが、その夜ようやく一区切りついた気がした。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














