「今撮ってるから、そこ入らないで」水遊び場を撮影場所のように使った2人組。だが、管理の人の一言で状況が一変
歓声が消えた、昼の区画
去年の夏の昼、家族でよく行く公園にいた。
地面のいくつもの穴から水が噴き上がる区画があって、暑い日はそこだけ子どもの声が絶えない。
水は止まってはまた上がるのを繰り返し、同じ水が循環して使われている。
だから入るときは靴を脱ぐこと、草や土を穴に入れないこと。ベンチにも、手前のガードにも張り紙がしてあった。
その日、区画に2人組が入ってきた。
若い女性と、その母親らしい人だ。
2人とも靴を履いたまま、いちばん勢いよく水が上がる場所の近くに立った。
片方がスマートフォンを構え、もう片方が水を浴びながら向きを変えていく。
「もうちょっと右。そうそう、そのまま!」
「待って、今の目つぶっちゃった。もう一回撮って」
最初は、周りの子どもたちも気にせず遊んでいた。ところが何度か撮り直すうちに、2人の声が子どもたちにも向くようになった。
「ごめんね、今だけそこ空けてもらっていい?」
しばらくして、別の子が水の前を横切ると、今度は少し焦ったような声が飛んだ。
「あっ、ちょっと待って。今撮ってるから…そこ、入らないでもらえる?」
さらに、歓声を上げながら走ってきた子にも声をかけていた。
「ごめんね。少しだけ静かにしてくれる?」
3度も続くと、子どもたちはさすがに足を止めた。親たちも困ったように顔を見合わせていた。
「もういいよ。あっちの遊具に行こうか」
「えー、なんで? まだ遊びたい」
「うん…でも、ちょっとあっち行こう」
子どもの手を引いて区画を離れる親子がいた。それが二組、三組と続き、水の柱だけが誰もいない場所で上がったり下がったりを繰り返すようになった。
うちの子も、さっきまで夢中で走っていたのに、ぽつりと言った。
「もうブランコ行く」
「水、もういいの?」
「うん。もういい」
そう言って、近くのブランコのほうへ歩いていってしまった。
子どもが戻ってくるまで
そこへ、公園の管理の人が来た。自転車を押しながら水遊び場のほうへ来ると、そのまま区画の入り口へ向かった。誰かが知らせたのかもしれない。
管理の人はガードの手前で立ち止まり、水の中にいる2人へ声をかけた。
「すみません。ここ、靴を脱いで入ってもらう場所なんです」
2人が振り返った。
「え?ちょっと撮ってただけなんですけど」
「あと、ほかのお子さんに場所を空けてもらったり、静かにするようお願いしたりするのはやめてください。ここはみんなが遊ぶ場所なので」
若い女性がスマートフォンを下ろした。
「でも、あとちょっとなんです。すぐ終わるんですけど」
管理の人は声を荒らげず、入り口に貼られた注意書きを指した。
「申し訳ないんですが、靴のまま入られていることもありますし、今日はもう出てもらえますか」
少し間があって、年上の女性が若い女性に小さな声で言った。
「もう行こう」
若い女性も、それ以上は何も言わなかった。
「……分かりました」
2人はスマートフォンをしまい、水にぬれた靴で音を立てながら区画を出ていった。
管理の人はその背中を見送ってから、少しめくれていた張り紙の端を押さえ直し、自転車のほうへ戻っていった。
静かになった区画に、最初に足を踏み入れたのは小さな男の子だった。
入り口で靴を脱ぎ、そろえて置いてから、水が出る穴へそろそろと近づいていく。
次の瞬間、水の柱が勢いよく上がった。
「わあ!出た!ママ、出たよ!」
その声を聞いて、芝生のほうにいた別の子が走ってきた。
「ぼくも入る!」
「靴脱いでからね」
それを合図にしたように、離れていた子どもたちが次々に戻ってきた。入り口には小さな靴が並び、裸足の足が水しぶきの中を走り始める。
さっきまで泣きそうな顔をしていた女の子も、いちばん高く上がる水の真ん中で両手を広げて笑っていた。
ブランコにいたうちの子も、その声に気づいて駆けてきた。
「ねえ、また入っていい?」
「もちろん。靴、ここに置いていって」
子どもは急いで靴を脱ぐと、私の膝の上にぽんと置いた。
「あっち、まだ空いてる!」
そう言って、水の中へ走っていった。
さっきまで妙に静かだった区画に、水の音と子どもたちの笑い声が戻っていた。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














