「私、聞きすぎてました?」家族や休日を何度も聞いてきた同僚。だが、私が本音を伝えた結果
話した回数と、聞かれる中身が合わない
その人が私の隣の島に来たのは春だった。
挨拶と業務連絡を交わした程度で、まだ数回しか話していない関係だったと思う。
四十を過ぎて、職場の人間関係でこんなふうに戸惑うとは思っていなかった。
始まりは昼休みだった。お弁当を広げた私の向かいに座ると、その人はにこにこしながら話しかけてきた。
「休みの日って、よく出かけるんですか?」
「いや、そんなに。近所を歩くくらいですよ」
「ご家族と一緒に?」
「まあ、そういう日もありますね」
そこで終わるかと思ったが、相手はもう一つ聞いてきた。
「ご家族って何人なんですか? おうちは一戸建てです?」
「ああ、そのへんは……まあ、いろいろです」
自分でも曖昧な返事だと思った。それでも、詳しく話したくないことは伝わるだろうと思っていた。
後日、連絡先を聞かれたこともあった。
「よかったら連絡先、交換しません?」
「ごめんなさい。私、職場の人とは私用のやりとり、あまりしないようにしてるんです」
「あ、そうなんですね。分かりました」
相手はすぐに引いたので、私はそこで終わったものだと思った。
ところが、それからも数日おきに家のことを聞かれた。夫の勤め先については、歓迎会と昼休み、帰り際と、合わせて3度聞かれた。
「旦那さんって、どちらにお勤めなんでしたっけ?」
「その話は、職場ではあまりしないようにしてるんです」
「あ、そうでしたね。すみません」
嫌な言い方をされるわけではない。表情もいつもやわらかかった。
だからこそ、「そこまで聞かないでください」とはっきり言うと、自分のほうが神経質な人に見える気がして、なかなか言えずにいた。
聞くのをやめてくれるまでの、短い時間
それでも、このまま気を遣い続けるのは疲れると思った。
ある朝、雑談の中でまた休日の話になったところで、私は少し迷ってから口を開いた。
「あの、ひとついいですか」
「はい?」
「私、自分の予定は話さないんです。家のことも、職場ではあまり話さないようにしてて」
相手は一瞬、驚いたような顔をした。
「あ…私、聞きすぎてました?」
「責めたいわけじゃないんです。ただ、誰にでもそうしてるので」
「そうだったんですね。すみません」
「いえ、大丈夫です」
その場ではそれで終わった。
その日の午後、仕事の区切りがついたところで、相手が何気なく声をかけてきた。
「そういえば、今度の休みって」
そこまで言って、相手自身が「あっ」と口を止めた。
私は少し笑って、もう一度だけ伝えた。
「ごめんなさい。私、自分の予定は話さないんです」
「ですよね。ごめんなさい、つい聞いちゃって」
相手は気まずそうに視線を落とした。
「悪気はなかったんです。なんとなく、話しやすくて」
「うん、それは分かってます」
私は少し間を置いてから続けた。
「仕事のことなら、何でも聞いてください。分からないところとか、何回でも大丈夫ですから」
「…ありがとうございます」
少し離れた席で伝票を数えていた同僚が、会話が途切れたところで顔を上げた。
「私も家のことは、あんまり話してないですよ」
相手がそちらを見る。
「そうなんですか?」
「うん。まあ、そのへんは人それぞれですよね」
「そっか…。私、ちょっと聞きすぎてたのかも」
相手は小さく笑って、手元の書類を持ち直した。
「気をつけます」
話はそこで終わった。
次の週も、その次の週も、休日の予定を聞かれることはなかった。
ひと月ほどして、その人が付箋を貼った書類を持ってきた。
「すみません。今ちょっといいですか?」
「どうしました?」
「ここの書き方が分からなくて。これで合ってます?」
「あ、ここですね。先にこっちの欄を埋めれば大丈夫ですよ」
「なるほど。ありがとうございます」
「いえいえ」
それからは、仕事のことで声をかけられることはあっても、家族や休日について聞かれることはなくなった。
はっきり伝えるまでは少し勇気がいった。でも、相手を責めなくても、自分が話したくない範囲は示せる。あのとき言葉にしたことで、かえって仕事では話しやすい関係になれた気がしている。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














