「これじゃ寝れないよ。毎晩これだろ?」隣人の長電話に2年間眠れなかった。だが、管理会社から聞いた事実に気持ちが晴れた
眠れない夜に響く知らない誰かの会話
その日も、私はベッドの上で目を閉じたまま天井をにらんでいた。時計の針はとっくに零時を回っている。それなのに、隣の部屋からは話し声が途切れない。
「内容まで全部聞こえる」
思わず口に出してしまうほど、隣人の電話の声は大きかった。壁が薄いだけではない。声量そのものが、深夜だということを完全に忘れている。
「それはさーー!」
突然、壁越しに笑い声が弾ける。びくっと肩が跳ねて、せっかく落ちかけていた眠気が一気に吹き飛ぶ。朝が早い私は、明日のことを考えると気が遠くなった。耳栓を試しても、低い話し声の振動は布団の中まで届いてくる。
「ねえ、まだ起きてる?」
隣で寝ていた夫に小声で聞くと、夫もため息で返してきた。
「これじゃ寝れないよ。毎晩これだろ?」
二人とも、相手の声を聞き分けられるくらいには耳が慣れてしまっていた。それがまた、たまらなく嫌だった。
直接言えない私たちが選んだ方法
本当は、壁を叩いて怒鳴ってやりたかった。でも、相手がどんな人かも知らない。逆上されたら、ここで暮らし続けるのが怖くなる。
「直接は、やめたほうがいいよね」
夫も同じ考えだった。私たちが選んだのは、ひたすら記録を取って管理会社に送る、という地味な方法だった。
一度は注意してもらえた。数日は静かになった。けれど、しばらくするとまた深夜の長電話が戻ってくる。その繰り返しだった。
「もう、ここを出たほうが早いのかな」
「でも、なんで私たちが出ていかなきゃいけないの」
何度そう言い合ったか分からない。それでも記録だけはやめなかった。日付と時刻と、その夜の様子。淡々とメモを取り続けるうちに、季節は二回りした。
空っぽになった隣室と取り戻した夜
ある朝、隣の玄関先に引っ越し業者の台車が並んでいるのを見つけた。管理会社からは、隣人が契約更新をせず退去する、とだけ聞かされていた。
昼過ぎ、大きなトラックが部屋の前に停まり、家具や段ボールが次々と運び込まれていく。やがて荷物をすべて積んだトラックは、エンジン音を響かせて道路の向こうへ消えていった。私はその様子を、窓際で最後まで見届けた。
夜になり、明かりを消して横になる。いつもなら、ここで隣の話し声が始まる時間だ。けれど、何も聞こえない。
「うそでしょ……静かすぎる」
あまりの静寂に、私は思わず声を漏らした。二年間、当たり前のように奪われていた夜が、何事もなかったかのように戻ってきている。耳の奥に染みついていた笑い声は、もうどこにもなかった。私はそのまま、深く息を吐いて目を閉じた。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














