「もう1回。負けたままじゃ終われない!」遊びで思わず大きな声を出した息子。だが、張り詰めた空気を和らげた伯父の一言
端のほうで続いていた、子ども同士の勝負
その日は親戚が集まっていました。座敷には座卓が二つ並び、大人たちは湯呑みを手に、それぞれ話をしていました。
子どもたちは部屋の端に集まって遊んでいて、うちの息子と甥っ子は二人でゲームをしていました。
何度か勝負をしていたようですが、その回はなかなか決着がつきません。どちらかが少し有利になっても、すぐに追いつかれる。二人とも、いつの間にかかなり夢中になっていました。
そして最後に、息子が負けました。
「もう1回。負けたままじゃ終われない!」
思ったより大きな声でした。
近くにいた大人たちが何人かこちらを振り向き、息子もそれに気づいたようです。さっきまで勢いよく話していたのに、急に黙ってしまいました。
甥っ子もゲームに手を置いたまま、息子の顔を見ています。
私も声をかけようか迷いました。勝負に夢中になっていただけとはいえ、親戚が集まっている場所です。
少し声を抑えるよう言ったほうがいいのかもしれない。そう考えていたときでした。
湯呑みを置いて、伯父が口を開いた
座敷のいちばん奥にいた伯父が、湯呑みを置きました。
「俺も昔、負けたら1回だけ卓袱台をひっくり返したわ」
突然の話に、今度はみんなの視線が伯父へ向きました。
「あれは、じいさんに怒られたなあ」
伯父はそう言って笑いました。
「あんた、ほんまにやったん」
伯母が聞くと、伯父は少し得意そうな顔をしました。
「一回だけや」
それを聞いて、何人かが笑いました。
さっきまで息子に集まっていた視線は、いつの間にか伯父の昔話へ移っています。息子も最初はぽかんとしていましたが、やがて小さく笑っていました。
「もう一回やる?」
甥っ子がゲームを並べ直しました。
「やる」
息子もすぐに答えました。
それから二人は、また同じゲームを始めました。負けたほうが「もう一回」と言い、勝ったほうも付き合う。そのまま夕方まで、何度も勝負を続けていました。
帰りの車で、息子が思い出したこと
日が落ちてから、みんなで片づけをして帰りました。
車を走らせてしばらくすると、後ろの席から息子の声がしました。
「あれ、ほんまに卓袱台ひっくり返したんかな」
私は少し笑って答えました。
「どうやろね」
本当の話なのかどうかは分かりません。
ただ、伯父があの話をしたあと、息子ひとりに集まっていた視線が外れ、座敷がいつもの雰囲気に戻ったことはよく覚えています。
息子も、そのあと何事もなかったように甥っ子と遊び続けていました。
伯父がどこまで考えてあの昔話をしたのかは分かりません。それでも、誰かを責めるのではなく、自分の失敗談をひとつ挟んだことで、その場の空気がやわらいだのだと思います。
今でも親戚が集まると、ときどきあの日の伯父の笑顔を思い出します。
※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














