「30円のために移動するの?」倹約家の夫。だが、3軒をはしごして浮かせた分を、彼がすぐに使い切った瞬間
買い物リストが店ごとに分かれている
彼の買い物リストは、店の名前ごとに分かれています。牛乳はここ、肉はここ、卵はここ、という具合です。
その日も朝から車を出して、3軒を回ることになりました。1軒目のレジを出たところで、彼がスマホのメモを開きます。
「次、肉な。ここのは30円高い」
「30円のために移動するの?」
「積み重ねやろ」
助手席で聞いていると、値段の記憶だけは正確でした。どの店の何が何円か、聞けばすぐ答えが返ってきます。
その暗記は、私の誕生日や記念日にはまったく使われません。卵とパンと洗剤の値段だけが、店ごとに頭へ入っているようでした。
3軒目のレジ待ちで、5分
3軒目に着いたのは、家を出てから1時間半後でした。
目当ての卵をカゴに入れて、彼はようやく落ち着いた顔になります。
ところが、レジに並んだところで様子が変わりました。列の横の棚に、小さな保冷ボトルが積んであります。
「300円なら、買っておいて損はない」
「家に2本あるよ」
「これは味が違うじゃん」
返事を聞く前に、ボトルはカゴの中でした。
そのあと電池のパックにも手が伸びて、順番が回ってくるまでの5分で、カゴの中身は300円ぶん増えています。
浮いた50円の行方
駐車場に戻ってから、レシートを3枚、膝の上に並べました。
卵で30円、牛乳で20円。3軒はしごして浮かせたのは、合わせて50円です。
「浮いた50円、もう残ってへんよ」
「……計算したらあかんやつやん」
彼はハンドルに額をつけて、それから真顔で言いました。
「でも、30円は30円やろ。安いのに高いほうを買うのは、なんか腹立つねん」
その理屈のどこにも、300円のボトルは出てきません。追及するのはやめて、私はボトルの包装を剥がして彼に渡しました。
そういえば去年の誕生日にも、ほしいと言った覚えのないマグカップをもらっています。私が選ばない色でしたが、今は玄関でペン立てになっていました。
帰り道、信号待ちのたびにボトルを持ち上げて眺めている横顔を見ていたら、なんだかどうでもよくなってきました。
安いものを探すのが好きで、気に入ったものが手に入るともっと嬉しい人なのだと思います。
「来週は、卵どこ行くの」
「駅前の店な。特売やから」
そう答える声が、いちばん嬉しそうでした。
※tendが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














