「雪の中、駅まで送ったのは俺です」私が付き添ったお客様のお礼を手柄にする先輩。紙袋の中身に引きつった顔
雪の翌日の花屋の奥で
先輩が、お客様のお礼の紙袋を持ってきました
2月の土曜の夕方、駅前の小さな花屋の奥。
店長と作業台にいると、先輩が紙袋を提げて店先から戻ってきました。
先輩は店長の甥で、私はここで働いて半年のパートです。
紙袋は、きのうの雪の日に来店した年配のお客様の息子さんが、先ほど店先に持ってきた物です。
息子さんは『母に持たされまして。長く待たせていただいたうえに、雪の中、駅まで送っていただいたそうで』とだけ言い、名乗らずに帰ったといいます。
先輩は、紙袋を店長に見せて言いました。
「雪の中、駅まで送ったのは俺です。」
先輩は、待つ間もずっと自分が付いていたと言いました
「待つ間も、ずっと俺が付いてました。」
「主任の話、俺で決まりですよね。」
来月、店長はこの店の主任を1人決めることになっています。
店長が配達などで不在の間、店内の仕事を取りまとめる役割です。
けれど、きのう花束ができるまで30分待つお客様に付き添い、目の前の駅まで店の傘を使って一緒に歩いたのは私です。
先輩は裏口の外にある物置で箱を片づける担当で、少なくともお客様のそばにはいませんでした。
先輩は、私の空の椅子を見て、猫が消えたと笑いました
先輩の目が、作業台の手前にある私の空の椅子に向きました。
「やっと消えたな、あのダサい猫。」
「捨てたなら、いい判断だ。」
いつも私の椅子にかけている、猫の顔のひざ掛けのことです。
店長はきのう、お客様が来店した時間帯には配達に出ていて、店内の様子を知りません。
花束の代金は現金払いで、お客様の名前も記録していませんでした。
その場ですぐに事実を確かめるのは難しい状況です。
『私です』と言っても、店長の甥の言葉と、パートの私の言葉。
主任の話が進んでいる最中に先輩に逆らえば、あしたもこの作業台に立てるかどうか。私は、はさみを握ったまま何も返せませんでした。
「主任の話、俺で決まりですよね」
私は、お礼の袋を店長の前で開けるよう促しました
せめて店長の目の前で開けてほしくて、私は言いました。
「お礼なら、店長に見ていただいては。」
先輩は、待っていたように袋の口を開けました。
店長の前で、いちばん上のたたんだ包みを両手で取り出します。
お礼の袋から、私が貸した猫のひざ掛けが出てきました
先輩が包みの角を持ち上げると、布が大きく広がりました。
オレンジの猫の顔のひざ掛け。半年前に私が編んだ物です。
「私の椅子の猫が、帰ってきました。」
きのう、花束ができるまでの30分間、お客様のひざにかけていた物です。
雪が強かったため、帰り道も寒くないよう、そのまま貸していました。
お客様からは後日返すと言われていたのです。
ずっと付き添っていたのなら、先輩もお客様がひざ掛けを使っている姿を見ていたはずでした。
先輩の顔が、紙袋に手をかけたまま引きつりました
私がひざ掛けを受け取ると、先輩は紙袋の持ち手に手をかけました。
「あの人は、そんな物持ってなかった!」
「持って帰ったから、袋で戻ったんです。」
お客様は駅で、ひざ掛けを肩にかけたまま改札を通っていったのです。
店長は先輩の顔を見つめ、きのうの接客について改めて確認しました。そして、先輩の前にあった紙袋を、私の前へ置き直しました。
しばらく黙り込んだ先輩は、『主任の話が、どうしてもほしくて』と声を落としました。きのうは裏の物置にいて、お客様の接客も駅までの付き添いもしていなかったと認めたのです。
先輩は主任の話を自分から断りました。そして花のバケツを提げ、引きつった顔のまま水場へ向かいました。
※本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。














