tend Editorial Team

2026.09.18(Fri)

「荷物、どけてもらえませんか」優先席をリュックでふさいだ男性。断った直後、向かいの乗客が静かに立ち上がった

「荷物、どけてもらえませんか」優先席をリュックでふさいだ男性。断った直後、向かいの乗客が静かに立ち上がった

リュックが置かれた優先席

社会人になって2年目のころ、朝の通勤電車でのことです。車内はほどよく混んでいて、私はドアの横に立っていました。

優先席には若い男性が1人座っていて、その隣の席には黒いリュックが置かれていました。男性は大きなヘッドフォンをつけ、スマートフォンの画面を見ています。

次の駅で、お腹の大きな女性が乗ってきました。

女性は手すりにつかまりながら車内を見回し、優先席の前で足を止めました。

若い男性も一度だけ顔を上げました。女性のほうをちらりと見ましたが、そのまま再びスマートフォンへ視線を戻します。

隣の席には、まだリュックが置かれたままでした。

見ていた私まで落ち着かなくなってきたころ、近くに立っていた年配の女性が男性に声をかけました。

「すみません。隣の荷物、ちょっとどけてもらえませんか?」

男性は気づかなかったのか、反応しません。

年配の女性がもう一度、「すみません」と声をかけると、男性はようやくヘッドフォンを片方ずらしました。

「…俺ですか?」

「はい。この方が座れそうなので、荷物だけお願いできます?」

年配の女性がお腹の大きな女性のほうを見ると、男性は少し眉を寄せました。

「でも、本人は別に座りたいって言ってないですよね?」

突然話を振られた女性は、困ったように首を振りました。

「あ…私は大丈夫です」

「ほら、大丈夫って言ってるじゃないですか」

男性はそう言って、再びヘッドフォンを耳に戻しました。リュックもそのままです。

年配の女性は何か言いかけましたが、それ以上は続けませんでした。

お腹の大きな女性も「すみません」と小さく頭を下げ、手すりを握り直しました。

新聞をたたんだ男性が立ち上がった

そのとき、向かい側の席で新聞を読んでいた年配の男性が、静かに新聞をたたみました。

そして席を立つと、お腹の大きな女性に声をかけます。

「よかったら、ここ座ってください」

女性は驚いて、すぐに首を振りました。

「えっ、でも…いいんですか?」

「大丈夫ですよ。私はもうすぐ降りますから」

「ありがとうございます。本当に助かります」

女性は何度も頭を下げてから、その席に腰を下ろしました。

年配の男性は「どういたしまして」と短く答え、吊り革につかまりました。

少ししてから、優先席に置かれたままのリュックに目をやります。

「せめて荷物は膝に置いたほうがいいんじゃないですか」

強い口調ではありませんでした。

若い男性はすぐには返事をせず、スマートフォンの画面を見たままでした。

けれどしばらくするとヘッドフォンを外し、ちらりと周囲を見回しました。

誰かがさらに責めることはありません。車内には、少し気まずい沈黙だけが残っていました。

次の駅に着くと、男性はリュックを持ち上げて肩にかけました。

そして何も言わずに席を立ち、そのまま隣の車両へ移っていきました。

二つ並んだ優先席が空いたのを見て、最初に声をかけた年配の女性が小さく息をつきました。

私はその様子を見ながら、誰かに注意することの難しさを感じていました。

相手を強く責めなくても、「今、その席を必要としている人がいる」と伝えることはできます。

朝の電車で交わされた短いやり取りが、その日はなぜかずっと心に残りました。


※本記事は、tendが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

RANKING

OTHER ARTICLES

NEW 2026.09.18(Fri)

「大事なものなので。下には置きたくないんです」朝の優先席でぬいぐるみが一席を使っていた。席が空いたあと年配女性がかけた言...
tend Editorial Team

NEW 2026.09.18(Fri)

「今は誰も座ってないじゃん」荷物で席をふさいだ男性。声をかけても動かなかったのに、突然電話を始めた
tend Editorial Team

NEW 2026.09.18(Fri)

「若いんだから席を代われ」混んだ電車で女子高生に詰め寄った男性。隣の女性が止めたあと、黙っていた私も口を開いた
tend Editorial Team

RECOMMEND

2026.07.10(Fri)

「初月無料だからと入ったままで安心してる?」家計を圧迫する「サブスクの放置」と正しい見直し方
tend Editorial Team

2025.11.12(Wed)

「命を懸ける仕事として安すぎる!」と自衛官の給与体系に不満の声。GACKT「命を懸ける現場の対価が、これは安くないか?」...
tend Editorial Team

2026.06.09(Tue)

「全然違うよね?ちゃんと確認してる?」貰った資料をそのまま使ったのに怒る先輩。だが、他の同僚が真実を告げると、状況が一変
tend Editorial Team